「おかねの作文コンクール」
第54回「おかねの作文」コンクール(中学生)(2021年)
講評
第54回「おかねの作文」コンクールには、全国の中学校から4,324編の作品が寄せられました。テーマは、おかねに関することであれば「自由」です。厳正な審査の結果、特選5編、秀作5編、佳作10編の入賞作品が決まりました。
家族との何気ない会話をきっかけに、お小遣いの使い道やお金の価値について考察した作品が多数寄せられました。コロナ禍におけるキャッシュレス化や資産運用に目を向けた作品も見られました。ユニークな力作ぞろいの中から、特選5編の概要を紹介します。
金融担当大臣賞「思いやりのお金」は、ボランティア活動を積極的に行う母の姿から、お金で買えるのは物だけでなく、他人を思いやることにも活用できることに気づくまでの過程が、生き生きとした表現で書かれています。他人に対しお金を使うことが苦手だった筆者は、母親から紹介された参加費500円の「ごみ拾いボランティア」に参加します。気乗りしないまま始めたごみ拾いでしたが、汚かった海岸がきれいになり参加者の人と親しくなっていくことで、心がうれしい気持ちで満たされていくことに気づきます。そして、今までの自分に足りなかったものは「他人を思いやる心」だったと記しています。そして、その心を相手に繋ぐバトンの一つにお金があり、その繋がりがさらに広がって行くことを願っていると結んでいます。審査員からは「お金は自分の満足のためだけではなく、人とのかかわりの中で有効に使うこともできると気づいた点、経済全体のお金の循環に目を向けるようになったという点に、作者の成長を感じ取れた」「疑問から始まり実体験を経て、どういう意味があったかを結論付けられている点がとても良かった」と評価されました。
文部科学大臣賞「新たな一面」は、お金を紙幣や硬貨のデザインから論じた作品です。筆者は、家族旅行で海外を訪れた時にはその国のお金のデザインをチェックします。米ドルのように、長年デザインが変化しない紙幣があったり、現在の王、大統領の肖像が描かれているものがあったりすることに気づきます。そして日本のお金のデザインに言及し、中でも100円玉に描かれている桜花に魅力を感じます。春の暖かい風に吹かれながら花びらが散っている美しい情景が想像できると表現しています。キャッシュレス化が進みお金に触れる機会が少なくなることで、各国のガイドブックの役目も果たしているお金がなくなることは避けてほしいと力説。お金の持つ様々な面を意識しながら、その尊さ、ありがたさをより感じることでお金の新たな魅力に気づくことができるかもしれない。お金は売買のためだけでなく、それぞれ国の歴史、文化、自然にも触れることのできるものだという視点が明確な作品です。審査員からは「お金のデザインを取り上げ、そこからお金の役割や社会の中で持つ経済的役割とともに、国や土地柄の中で持つ価値についても言及する展開にオリジナリティがある」という評価を得ました。
日本銀行総裁賞「お札が紙くずになった日」は、2016年、インドで起きた高額紙幣廃止による混乱を目にした筆者の体験に基づいた作品です。滞在2年半が過ぎた頃、ナレンドラ・モディ首相による高額紙幣無効化が発表され、1,000ルピー札(約1,600円)と500ルピー札が使えなくなります。生活必需品を買うことも難しくなり、お金が使えないことで家族の仲もギスギスしたものになりました。こうした状況下で、インドに住む日本人同士の助け合いが何より支えになったといいます。SNSで情報共有し、日用品を譲り合い、お互いに助け合ったことが、多くの人の不安を和らげることに繋がりました。この体験から筆者は、「現金も電子マネーも人が決めた道具にしか過ぎない。政府の政策、自然災害、紛争などでお金が使えなくなった時、頼れるのは人と人との繋がりだ」と実感します。審査員からは「共助がテーマに取り上げられている。お金という人為的な価値に対し、普遍的な価値としての共助の大切さを捉えている点が印象的だった。テーマが海外での出来事で目を引いたが、特殊な経験という描写に止まらず、自分事として咀嚼している点が良かった」と評価を受けました。
日本PTA全国協議会会長賞の「コロナの時代に『おかね』について考えた事」は、時代とともにお金の形は電子マネー、クレジットカードと変わっても、それに対応したお金の使い方を考えることの大切さを描いた作品です。コロナ感染のリスクから筆者は現金に触れる機会が減りました。買い物は電子マネーで、電車やバスは交通系ICカードで支払います。電子マネーの様々な便利さに気づく反面、いくつかの不安も感じるようになります。お金のありがたみを感じにくくなり、セキュリティの危うさや将来お金の管理ができにくくなるのではといった不安を覚えるようになりました。親からお金の価値、用途、セキュリティの方法についてアドバイスを受け、自分への投資の必要性にも気づいていきます。最終的には子どもの時から投資、保険、税金のことを学び、自分の選択肢を持つことが大切だと結んでいます。審査員からは「コロナ禍で直接お金に触れられないという話から、電子マネーなどの利便性について考え、最後は利便性だけではないという点に気づいている。親のすすめで税金に関する本などを読んで、お金の使い方について、自分の感じたことを描いている点が非常に良かった」といった評価を受けました。
金融広報中央委員会会長賞の「お下がりのランドセル」の筆者には6歳年上の姉がいます。小学校の入学式の時のランドセルもワンピースも姉のお下がり。習字用具、裁縫セット、体操着などもすべてお下がりで、新しいものを買ってくれない母に少し不満を持っていました。高学年になったある日、今までの不満が爆発し「なんでいつもお下がりなの?」とその思いを母にぶつけます。すると母は、姉は妹のことを考え、軽くてシンプルなデザインのランドセルを選び、大切に使ってきたのだと伝えます。また、浮いたお金で図鑑や英語辞書を買ってもくれました。お下がりがお金の節約のためでしかないと思っていた筆者は、ランドセルには姉と母の想いが込められていることに気づきます。そして、「お下がり」は英語で「hand me down」、受け継ぐとの意味があることを姉から教えてもらいます。以来、無駄な物はなるべく買わず、動物保護団体に定期的に寄付するなど「心が幸せになる」ためのお金の使い方を実践するようになりました。審査員からは「お下がりのランドセルに込められた母と姉の想いから、物を大切に使うこと、予算の制約の中で幸せになれるお金の使い方をすることを学んだという心境が素直につづられている」「『お下がり』という現代の子どもにはネガティブに受け止められがちな体験を通じて、その裏にある人々の想いに展開していくところに豊かな人間性を感じられる。広く中学生、指導される先生方に読んで欲しい作品」という評価を受けました。