高校生小論文コンクール
第20回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクール(2022年)
講評
第20回「金融と経済を考える」高校生小論文コンクールには、2,255編の応募がありました。テーマは金融や経済に関すること。厳正な審査の結果、特選5編、秀作5編、佳作10編の入賞作品が決まりました。
高校生の視点から、SDGsや子どもの貧困、起業、地域活性化など幅広いテーマの作品が数多く寄せられました。その中から特選5編の概要を紹介します。
金融担当大臣賞「紅茶から考える自分の将来」は、紅茶のペットボトルのラベルに書かれていた熊本復興応援プロジェクトに興味を持ったことをきっかけに、寄付への取り組み方や自然災害の多い日本の現状について考察し、自分が将来就きたい職業について考えた作品です。このプロジェクトは、熊本県産いちごや茶葉を利用した紅茶の売上1本につき3.9(サンキュー)円を復興応援のために活用するもので、多額の寄付につながったといいます。筆者はこの取り組みのメリットを3点あげ、寄付を意識しなくても気軽にできること、「地域活性化」を推進できること、そして遠くに感じる被災地への支援が届き「視野を広げられる」ことだと考えます。さらに、日本で大雨の発生件数が増加しているデータを示し、今後さらに自然災害が頻発すると指摘。その原因である地球温暖化による気候変動は、国内だけでなく世界の共通課題だと気づきます。将来は経済や金融について学び、その知識を活かし、世界にも目を向けて困窮している人々を助けられるような仕事がしたいと結論づけます。審査員からは「些細な事柄からどんどん視点を広げていくという考察過程が非常に面白かった」「自分の将来について真剣に向き合っていく姿勢が見られた」といった評価を得ました。
文部科学大臣賞「カレーと豆ごはん~気持ちを循環させるお金と経済のあり方」は、瀬戸内海の島で生まれ育った筆者が、高校入学を機に暮らし始めた街での体験をきっかけに、お金が人を支え合う手段として機能する社会を作りたいと決意する作品です。筆者のふるさとの島では、四国遍路を模した「島四国」の参詣客へ豆ごはん等をふるまう行事や日常生活の中で、お金を介在しない助け合いの精神が根付いています。高校生になり、街で一人暮らしを始めた筆者は、「助け」をお金で買えることに物足りなさを感じていましたが、大人が学生の食事代を支援するキャンペーンを行っているカレー店で食事をしたことで、都会にも「お互い様」文化があることに気づきます。また、島の船員養成学校や協同組合、相互銀行など、古くから地域住民がお金を出し合って支え合う仕組みがあったことに思いをはせた筆者は、困っている人や学びたい人、志を実現したい人が当たり前に支援を受けられる仕組み、仮称「お接待ネットワーク」を構想します。審査員からは「目指す社会に向けた明確な意思がある。自分の経験などの事象を積み上げていき、結論をしっかりと出していく説得力がある作品」「深い洞察力があり、具体的な制度設計にまで言及している」と評価されました。
日本銀行総裁賞「日本の子供たちの相対的貧困」は、日本のひとり親世帯の貧困問題について、世界のデータと比較し、解決策にまで言及した作品です。ここ数年、日本の産業の生産性が向上せず、貧困率は上昇傾向にあると筆者は指摘します。また、日本のひとり親世帯の貧困率が、OECD加盟国の中で一番高いことを示し、相対的貧困による子供たちへの精神的なダメージや、次の代への貧困の連鎖について問題を提起します。その上で筆者は、ひとり親世帯の貧困率の引き下げに成功したイギリスの4種類の取り組み(学校に給付される児童特別補助、児童信託基金、低所得世帯への現金給付、数値的目標の設定)を例に挙げ、この中から日本でも適用できるものがあると例を挙げていきます。これらの検証過程で、給付対象を子供とするイギリスと子供の保護者とする日本との政策の方向性の違いに気づいた筆者は、日本の子供たちの相対的貧困の解決には子供たち本人に対する給付金などの支援が必要不可欠だと結論づけます。審査員は「海外の事例も含めてよく調べていて、深い視点で日本の政策を論じている」「身近な問題から世の中の課題を引き出してくる切り口の鋭さがあり、主張が明確で説得的である」と評価されました。
全国公民科・社会科教育研究会会長賞「生理の貧困と考え方」の筆者は、都立高校で保健委員の活動をする中で、高校に生理用品が配られたことをきっかけに、生理の貧困や女性のおかれている状況に気づき問題点を指摘します。実際にトイレに生理用品が置かれるようになり、その効果を実感する一方、課題として、個数に制限がある点、継続性が不明な点をあげます。こうした体験を通し、「生理の貧困」について、日本の15歳から24歳を対象に行った調査で「生理用品を購入できなかったり、ためらったりした」と答えた人のうち大半が「経済的理由」であることを紹介します。また、筆者は、スコットランドやニュージーランドなどでの無料提供や、アメリカでの消費税課税廃止の動きなど、生理用品に関する世界の取り組みを調べていきます。女性に対する差別、日本における性へのタブー視や性教育の遅れなど、様々な問題について考えをめぐらせながら、最後に、今できることは自分の考え方を変えることだと締めくくります。審査員からは「生理の貧困から出発し経済問題としての貧困、人権問題としての性に対する問題まで、内面を考えながら受け止めている」「考察を深めるプロセスがとても明晰な形になっていた」という評価を受けました。
金融広報中央委員会会長賞「シングルマザーとフードパントリー」の筆者は、飲食店でアルバイトをしている時、閉店時に大量の食品を廃棄していることに衝撃を受けます。まだ食べられるのに廃棄される食品が1年間に東京ドーム約5杯分の量に及び、増え続けていることを問題視した筆者は、食品ロスをなくすために活動しているフードパントリーに興味を持ち、ボランティア体験をします。そこでは、ひとり親世帯や失業者など生活困窮者が利用者の大半を占めており、その多くが女性で、小さな子供の手を引いて参加する人も数多くいました。筆者は、食品や日用品が幅広い提供先から寄付され、助け合いの精神が根付いていることを素晴らしいと感じながらも、フードパントリーの食品の取扱量が減少しているという事実をデータで示し、エンゲル係数が高いひとり親世帯、シングルマザーにとって、ライフラインの役割を担うフードパントリーを利用者の増加に合わせて増やしていくべきと指摘します。審査員からは「自らがフードパントリーでボランティアとして体験したうえで、数字を具体的に示し分析をしている点が素晴らしい」「現場で聞いた声に実感がこもっていて、はっとさせられた」といった評価を得ました。