特別対談
人生100年時代を豊かにする キャリアプランニングと金融リテラシー
経済評論家 山崎 元×金融広報中央委員会委員 日本銀行副総裁 若田部 昌澄
金融リテラシー浸透の障壁 その改善策とは
若田部 山崎さんのお話はどれも「なるほど!」と思う金融リテラシーなのですが、なかなか浸透していない印象を受けます。
それは「お金のことを考えることすら良くない」という感覚が日本人には根強く残っており、それが資産運用などを素直に学ぶ障壁になっているように感じます。
山崎 多分にあると思います。教育関係者にもお金の話題に抵抗感を持つ人が小さくない割合でいます。そこを解きほぐすことは非常に重要です。
若田部 教える側の課題については、いろいろと考えるべき点がありますが、今の大人は金融リテラシーの必要性を意識してこなかった人も多いという状況から、教員も含めた大人への金融教育は急務と感じています。
山崎 学校で金融教育を行う際には、何をどれだけ教えるとよいのかという基本的なカリキュラムが必要です。学校で伝えるべき内容をできるだけ体系化し、精神論にかたよりがちなお金の話を、小学校や中学校など、それぞれの段階で損得をきちんと理解させながら金融の社会的構造を教えることで、実践的な金融リテラシーが身に付いていくのではないでしょうか。
若田部 学習指導要綱が改訂となり金融教育も取り入れられていますが、カリキュラムの充実と定型化、それに則した使いやすいテキスト、教員育成の三つの強化をできたらよいと思います。
ところで、金融リテラシーを身に付ける方法として、若いときから投資を行うことはいかがですか?
山崎 少額でも実際に体験することで投資の仕組みが理解できますし、資産運用の感覚も養うことができます。投資は使える時間が長いのが大事なので、若いときから始めるのはよいことだと思います。
若田部 日本では退職金を手にして初めて資産運用を始める人も多いという現状があります。
山崎 それはたぶん最悪の運用デビューのパターンです。
金融リテラシーが十分でないにもかかわらずまとまったお金を手にして「自分は客である」という意識が強くなり、勧められる金融商品の情報を理解しないで購入してしまう人が少なくありません。手数料が高かったり、自分の望んでいたのとは違うリスクの高い商品を選ぶケースが少なくない。
若田部 投資を始めたような人たちで思いがちなのは、投資の神様みたいな人がいて、神様的なことをやれば確実に儲かるのではないかと思うけど、それはありえないというのが第一原則ですよね。
それでは最後にうかがいます。山崎さんにとってお金とは?
山崎 「自由を拡大する手段」であると思います。あくまで手段として、合理的に扱い、自分の目的に応じて使えばよい。
若田部 16~17世紀に活躍した英国の哲学者のフランシス・ベーコンは「お金は素晴らしい召使いであるが主人としては最悪だ」と言っています。お金はあくまでも道具であり、お金そのものにとらわれてはいけないということですね。そして、お金にとらわれない生き方をするためには、お金のことをよく知らなければならない。
山崎 お金があることでできることの範囲も広がるし、お金は悪いものではない。
ただ、理想的にはまるで吸った息を吐くようにお金を使って、呼吸の際に空気を意識しないような感じで、お金のことを意識しない人生がよいのかもしれません。
若田部 それは最高ですね!
人生は計画通りにはいかないけれど、不確実な世の中だからこそ、プランニングが重要となる。そして金融リテラシーがあれば、何が起きても冷静に対処して最善を行うことができる。楽しい人生を生きるうえでキャリアプランニングや金融リテラシーは不可欠なものです。これからも私たちが伝えていくべきことはたくさんありますね。
本日はありがとうございました。
- 本対談は、距離の確保やマスク着用等の新型コロナウイルス感染防止対策を徹底したうえで実施しました。