行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防に関する一考察
2017年12月
金融広報中央委員会
福原敏恭
要旨
わが国では、かねてより消費者を狙った詐欺(以下、消費者詐欺)が問題となっている。そこで本稿では、行動経済学の知見を採り入れつつ、実際に発生した被害事例に即して詐欺被害の心理的メカニズムを分析するとともに、具体的な詐欺被害予防策を検討する。各章の構成は以下のとおりである。
まず第1章で、行動経済学の応用研究の進展状況について概観した後、第2章では、国内外の消費者詐欺の定義や被害状況を確認する。
続く第3章では、国内で発生した消費者詐欺被害の事例について詳しい分析を行う。具体的には、①犯人が用いるキーワードの特徴、②会話の特徴、③被害者手記にみる心境変化、などのテキスト分析である。また、本章では、犯人が一連の会話を通じ、被害者を意図した方向に誘導する心理的なテクニックである、説得的話法についてもふれる。
第4章では、ケーススタディの結果に基づいて、具体的な詐欺被害予防策を検討する。その際には、予防策の効果的な浸透を図るため行動経済学の知見を採り入れつつ、①「自分は騙されない」という自信過剰傾向への対応や各種電話機能の活用など、平常時における準備の重要性、②犯人から突然電話がかかってきた場合の三つの対応原則とその実践例、③ストレス時などその他心理要因の影響など、心理状況に即して検討する。
第5章では、前章で検討した心理面を中心とした予防策と、資金決済方法や通信手段などの面で絶えず変化しつつある具体的な詐欺手法との関係を整理する。
もとより、消費者詐欺被害に至る過程においては、被害者心理の変化のみならず複雑な要素が影響を及ぼしている。ただし、詐欺被害対策の実効性を高めていくためには、被害者の心理面の影響や、関連する行動経済学的な知見などを活用すべき点が多々ある。
行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防に関する一考察(PDF 732KB)