何度でも学び直して自分が輝くキャリアを築こう
人生100年時代。これまでの『教育を受けた後、仕事をして、引退する』という3ステージの人生モデルが変わりつつあります。
政府では『教育未来創造会議』を立ち上げ、社会人の学び直しを意味するリカレント教育(リカレントとは「繰り返す」「循環する」の意)の推進に向けた環境整備に乗り出しています。
就職後もう一度教育を受ける、学び直しで得たスキルを活かして新天地で働く——といった新しい形のキャリアプランについて考えます。
Q1. 最近よく聞かれる、リカレント教育が注目されるようになった背景について教えてください
A1. 人生100年時代、就職後に学び直しをして、キャリアアップやキャリアチェンジにつなげる重要性が高まっています
2017年に政府が設置した「人生100年時代構想会議」では、これまでの「教育を受けてから仕事をし、引退する」という働き方のモデルが変わりつつあることが指摘されました。
1つの会社で定年まで勤めあげる働き方が主流だった時代は、社内でのキャリアアップが重視されていました。
しかし、雇用の流動化が進み、働き方が多様化する中で、これまでのような組織内でのキャリア形成よりも、自らの市場価値を主体的に高めるためのスキルアップや学びの必要性が高まっています【図表1】脚注1。
またビッグデータや人工知能といった新しい技術が次々に登場するなど技術革新が急速に進む中、求められるスキルの変化、持っているスキルの陳腐化のスピードが速くなっています。
人口減少や新型コロナウイルス感染症拡大などを背景に、社会・経済の大きな変化が予想されるこれからの時代は、環境変化に応じて自らを変化・進化させる柔軟なキャリア形成が求められます。
さらに人生100年時代の到来に伴い、働く期間の長期化も見込まれます。だからこそ、生涯にわたって何度も教育を受ける、学び直し(=リカレント教育)が注目されているのです。
Q2. 日本でも学び直しをしている人は増えているのですか
A2. すでに学び直した人、将来学び直しをしたい人は若い世代ほど多く、30代では全体の5割にのぼります
内閣府が行った「平成30(2018)年度生涯学習に関する世論調査」によれば、社会人になった後で、大学・大学院、短大、専門学校などの学校で学んだことがある人、 今後学習してみたい人の割合は、全体の36%にものぼり、特に30代では50%を超えています。
若い世代ほど学び直しへの関心が高いといえます。
ただ、2015年OECD調査によると、高等教育機関(4年制大学)への25歳以上の入学者割合は、日本はOECD諸国の中で最低レベルとなっています【図表2】脚注2。
それに対し、北欧諸国やドイツ、イギリスといった国々ではいち早くリカレント教育の重要性に気づき、人への投資を積極的に行うことで、労働力の質を高め、柔軟な労働市場の形成が進んでいます。
Q3. 社会人の学び直しは、公的な制度として整備されているのでしょうか
A3. 政府は大学などにおける実践的・専門的な社会人向けプログラムを「職業実践力育成プログラム」(BP)として認定しています
社会人の、より実践的・専門的な学びの場として注目されるのが、全国の大学や大学院が実施する「職業実践力育成プログラム」(BP)です。
BPはリカレント教育推進を目的に文部科学省が2015年度に創設したプログラムで、毎年新たな講座が同省の認定を受けています。
実務家や関連企業と連携した授業、グループワーク、フィールドワークなどの科目で構成され、実務に即したスキルの習得が可能です。また、週末や夜間に開校するなど、社会人が受講しやすい環境が整えられていることも特徴です【図表3】脚注3。
働きながら大学で学びやすくなっている
①履修証明書の発行が受けやすく |
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最低授業時間数が120時間➡60時間に引下げ |
②教育訓練給付と「BP認定講座」の連携 |
認定講座の約半数では受講費用の4~7割を教育訓練給付から支給 |
BP認定の対象講座には、
①修士の学位を取得できる大学・大学院の正規課程のほか、
②社会人等の学生以外の者を対象に開講された一定のまとまりのある学習プログラムの修了者に対して、法に基づく履修証明書が授与される特別課程「履修証明プログラム」があります。
これまで履修証明書の発行には最低120時間の授業時間数が必要でしたが、社会人が受けやすいよう60時間に引き下げられ、認定対象の講座は年々増えています。
BPには最先端の理論を学べるプログラムが多く、授業内容は総じてレベルが高いため、仕事と勉強の両立は大変かもしれません。
しかし専門的なスキルや資格を身に付け、違う仕事をしてみたい、(新卒時には叶わなかったが)希望の職業に就きたい、という人には挑戦する価値のある制度です。
Q4. 学び直しは魅力的ですが、経済的な負担が心配です
A4. 教育訓練給付制度があり、受講料の一定割合が国から支給されます
社会人の学びの場には、大学院、大学・短大、放送大学、専門学校、JMOOC(無料のオンライン大学講座)などがあります。
これらのうち、BP(Q3参照)に認定された講座の約半数は、教育訓練給付制度が利用できます。
Q3 社会人の学び直しは、公的な制度として整備されているのでしょうか
教育訓練給付制度とは、受講者が負担した費用の一部を国が支給することで資格取得などを支援する仕組みです。
利用できるのは雇用保険の被保険者(在職者と離職後1年以内(注)の者)で、雇用保険に加入できない自営業者などは対象外です。
(注)妊娠、出産、育児、疾病、負傷等で教育訓練給付の対象期間の延長を行った場合は最大20年以内。
指定のプログラムを受講し、その後資格を取得するなど一定の条件をクリアした場合は、受講費用の最大7割が支給されます(雇用保険の被保険者期間原則3年以上の受講者が対象)。
また、企業負担で従業員を受講させる場合、企業に助成金が支給されます。
支給額は受講する講座により次の3種類に分けられます【図表4】脚注4。
労働者が、主体的に厚生労働大臣が指定する教育訓練を終了した場合に、その費用の一部を雇用保険により支給。
①専門実践教育訓練給付 | ②特定一般教育訓練給付 | ③一般教育訓練給付 | ||
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給付内容 | 受講している間、また、終了した場合、受講費用の50%(上限年間40万円)を支給 ※訓練終了後1年以内に、資格取得等し就職等した場合には、受講費用の20%(上限年間16万円)を追加支給。 |
受講費用の40% (上限20万円) |
受講費用の20% (上限10万円) |
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支給要件 | 在職者または離職後1年以内 (妊娠、出産、育児、疾病、負傷等で教育訓練給付の対象期間が延長された場合は最大20年以内)の者 |
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+ | ||||
雇用保険の被保険者期間3年以上 (初回の場合は①は2年以上、②③は1年以上)の者 |
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講座数 (2021年10月時点) |
2,584講座 | 484講座 | 11,177講座 | |
受給者数 (2020年度実績) |
29,404人 | 1,647人 | 89,011人 |
支給額が最も高いのが、看護師養成など、専門的な講座を対象とする
①「専門実践教育訓練給付」です。
年40万円を上限に受講費用の50%が最長4年間支給されるほか、訓練修了後1年以内に、定められた資格を取得し、就職し雇用保険に加入すると、受講費用の20%分の追加支給も受けられます。
そのほか、再就職や早期のキャリア形成に資する教育訓練を対象にした
②「特定一般教育訓練給付」や
雇用の安定・就職促進のための教育訓練を対象とした
③「一般教育訓練給付」があり、
前者は20万円を上限に受講費用の40%を、後者は10万円を上限に受講費用の20%が支給されます。
①および②の教育訓練給付金の申請手続は、受講開始日1カ月前までに訓練対応キャリア・コンサルタントによる「訓練前キャリアコンサルティング」と「ジョブ・カード」の交付を受け、書類を提出する必要があります。
まずは、居住地のハローワークで、受給資格の有無や支給要件を確認しましょう。
Q5. 会社を辞めて学び直す場合にはどんな制度が利用できますか
A5. 進学の場合、求職者給付は使えないのが一般的ですが、教育訓練給付制度は利用できます
雇用保険に加入していた人が会社を退職した際に支給される求職者給付(いわゆる失業保険、以下同)は、あくまで「就業意思」がある人のための制度です
そのため、仕事をやめ、全日制の大学や専門学校に通う人は失業保険を受給できません。但し、夜間・通信制学校の学生となった場合は、申請により失業保険の給付を受けられる可能性もあります。
仕事をやめて全日制の学校に進学する場合、失業保険は受けられないものの、離職後1年以内なら教育訓練給付制度(Q4参照)は利用できます。
また学力や家計状況の審査に通れば、社会人でも奨学金を利用できます。
中でも募集人数が多い日本学生支援機構の奨学金のうち、卒業後に返済が必要な貸与型の利用が多くなっています。
貸与型には無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金があります(過去に奨学金の貸与を受けたことがある場合は別途条件があります)。
第一種奨学金の貸与月額は大学の場合、2万円~6万4000円から選択が可能(最高月額の利用には条件があります)。
また、第二種奨学金の貸与月額は、大学の場合で2万~12万円、大学院で5万円~15万円からそれぞれ選択が可能です。
返済は貸与終了後、7カ月目から開始されます。ほかにも各地の大学、地方公共団体、民間団体などが社会人向けの奨学金制度を設けています。
Q6. 出産・育児等で退職した場合の学び直しや再就職へのサポート制度はありますか
A6. ハローワークには雇用保険受給資格がなくても受けられる訓練制度があります
就職活動の際に利用するハローワークには、働く意欲があればだれでも必要な職業スキルや知識を原則無料で学べる職業訓練制度「ハロートレーニング」があります。
ハロートレーニングには、対象者別に5つ(離職者、在職者、求職者、学卒者、障害者)の訓練コースが準備されています。
その一つである「求職者支援訓練」は、雇用保険に未加入で失業保険を受給できない人(非正規労働者や長期失業者など)や、収入が一定以下の在職者が、一定の要件を満たせば、再就職・転職・スキルアップを目的に、月10万円の給付金を受けつつ無料の職業訓練を受けられる制度です。2020年度には全国で2万人以上が受講しています。
求職者支援訓練には、基礎コースと実践コースがあり、基礎コースではパソコン技術やビジネスマナー、キャリアプランの設定についてなど、社会人に必要な基礎的スキルについて学べます。
実践コースでは実際に就職を希望する職種で必要となる実践的スキルを学べます。
分野は簿記習得などのビジネス系、介護・医療、旋盤・溶接などの専門機能系まで様々で、地域によってはWEB制作、伝統工芸、農業、国際ビジネスなどを学べるケースもあります。
Q7. 仕事や育児等の事情で、学びの場に出かけられない場合のサポート制度はありますか?
A7. Eラーニングや社会人の学び直しを応援するサイトなどを活用しましょう
通学制のスクールなどに通う時間がない人に便利なのが、オンライン環境さえあれば、時間や場所の制約なく学べるEラーニング。中でもビジネス全般について学べる、1カ月あたり1650円〜の定額制動画学習サイトが「グロービス学び放題」です。
会員になると、会計、財務、マーケティング、組織・リーダーシップ、キャリアなどのカテゴリーに分類された約4200本のビジネス動画が見放題。
フレームワークなどのビジネスの基礎知識から最先端のビジネス理論、ケーススタディまでが網羅されており、ビジネス経験の浅い人からリーダークラスまで目的に応じて学べます。動画1本の長さは3分程度〜と短めで、すき間時間で効率的に学習できます。
また、日本経済新聞社が運営する「日経ビジネススクール オンライン講座」も、ビジネスパーソン要注目の学習サイト。
デジタル、マーケティング、人事・総務、会計財務など13のテーマから興味のある講座を選び、受講料を支払って学習する形式で、サンプル版の視聴も可能です。課題を提出することで添削指導を受けられる講座もあり、不足している知識やスキルが明らかになるのも特徴です。
受講料は講座により異なりますが、5時間の財務諸表マスター講座が1万9800円、30時間のプログラミング体験講座が4万9500円などとなっています。
社会人の学び直し支援を目的とする、文部科学省運営のポータルサイト「マナパス」もぜひチェックしてみましょう【図表5】。
マナパス(文部科学省HPへリンク)
「分野」「資格」「給付金や奨学金等の支援」「土日・平日夜間開講」など自分の希望に沿った条件で講座内容が検索できるほか、「マイページ機能」が新しく搭載され、気になった講座のお気に入り登録などができるようになりました。
また、受講経験者のインタビューなども掲載されています。学び直しの具体的なイメージがより湧きやすくなる内容ですのでご活用ください。
- 脚注1
- (出所)監修者作成
- 脚注2
- (出所)OECD「Education at a Glance(2017)」(諸外国)及び文部科学省
「平成27年度学校基本統計」(日本)に基づき作成 - 脚注3
- (出所)監修者作成
- 脚注4
- (出所)監修者作成
監修/
和泉 昭子(ファイナンシャル・プランナー)
本コンテンツは、金融広報中央委員会発行の広報誌「くらし塾 きんゆう塾」Vol.60 2022年春号(2022年(令和4年)4月発刊)から掲載しています。
広報誌「くらし塾 きんゆう塾」目次