金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
5.各学校段階における金融教育
(3)高等学校における金融教育
② 学習指導の工夫
ア.金融教育における「知識の活用」という視点
金融教育に限らずどのような学習においても知識を学ぶことは大切なことである。しかし、知識を知識として得るだけでは学ぶ意義は小さいだろう。知識を活用する力を育てることがより重要なのである。そのためには生徒の体験に基づきながら学習指導を展開する、あるいは意図的に体験活動を導入して知識を活用させることなどが必要となる。その意味では、金融教育が単なる知識の習得のみを目指したものではなく、収集した情報を読み取ったり、知識を活用して合理的に判断したりする力を養うことなど、実生活に生かす力を育てることを重視している点に注目しなければならない。
しかし、こうした知識を活用する力は、実際にそれを活用する場を授業の中に設定し、指導していかなければ育てることは難しい。では、この「場」はどのようなかたちで設ければよいだろうか。一般的には、知識を伝達することが中心となる講義形式ではなく、課題追究的な学習、あるいは討論やディベートを行う学習、シミュレーションゲーム等の興味を引く学習などを展開する中で知識を効果的に活用させることになろう。しかし、何を追究するか、どのようなテーマで討論あるいはディベートを行うかで知識の活用の仕方は変わってくる。また身に付ける知識の質も高いものでなければ活用の範囲が狭いものになってしまうであろう。
以上の点に留意しながら、高等学校の金融教育における学習指導の工夫を考えるとするならば、まず授業づくりの基本としては、需要、供給、価格、利子、株価などをはじめ経済や金融に関する基本的な知識を理解させるとともに、それらの知識を商品市場、金融市場、証券市場、労働市場に当てはめさせて活用させる、例えば実際に野菜を購入する場合、ローンを組む場合、株式を購入する場合、就職する場合、起業する場合などの具体的な場面を想定した指導が考えられよう。
イ.金融教育における「合理的な判断」という視点
次に、金融教育では先に述べたように生徒の合理的な判断力を育てることも重要なねらいである。そのためには、ア.で触れたように具体的な状況設定をした上で、(ア)生徒自身に実際に判断させること、(イ)判断した根拠を説明させること、そして(ウ)それが様々な条件を考慮した上での最良のものであるか吟味させること、を目指した指導の工夫を意図的に行っていくことが必要である。生徒が判断した内容に対して、「なぜそれがよいのか」、「なぜそうするのか」、「他にどのような選択肢があるのか」、「他の選択肢ではだめなのか」という問いかけを繰り返すことが大切である。こうした問いかけを通して、生徒は自分が判断した根拠と向き合い思考を深めることができるのである。
ウ.金融教育における「意欲的な学び」という視点
このような授業の構成を考えた上で、最後に生徒が意欲的に学ぶための指導の工夫を考えなければならない。いうまでもなく学習するのは生徒自身であり、生徒が主体的に学ぼうとする意欲を引き出す指導の工夫が必要である。とりわけ抽象的・概念的・理論的な学習に終始してしまいやすい高等学校の授業においては、小・中学校以上の工夫が求められる。実物や視覚に訴えるもの、また生徒の関心の高い時事的な問題などを取り上げるなど、生徒の興味・関心を引き起こす教材を開発する必要があろう。加えて、もう一つ重要なポイントは、どのような問いかけ(発問)を準備するかということである。生徒のもつ常識を覆し、なぜそのようになるのか、どうなってしまうのか、どうすればよいのか、といった疑問を呼び起こす問いを準備することが必要となる。そして、疑問を追究し分かった内容(知識)、あるいはできるようになったことが、自分を質的に高めてくれたという実感をもたせることによって、本当の学ぶ意欲が醸成されていくことになる。