金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
5.各学校段階における金融教育
(3)高等学校における金融教育
① 考え方と進め方
ア.高等学校における金融教育の考え方と目標
高等学校では普通科、専門学科、総合学科において、様々な教科等で金融教育が展開されうる。
公民科では、必履修科目「公共」において「公正かつ自由な経済活動を行うことを通して資源の効率的な配分が図られること」、「市場経済システムを機能させたり国民福祉の向上に寄与したりする役割を政府などが担っていること」、「より活発な経済活動と個人の尊重を共に成り立たせることが必要であること」を理解するなかで、企業には製品事故といった問題を生じさせないように社会的に責任のある行動が求められており、「消費者も社会、経済、環境などに消費が与える影響を考えて商品を選択するなど、公正で持続可能な発展に貢献するような消費行動が求められていること」を学ぶ。これを踏まえ、自立した主体としてよりよい社会の形成に参画することに向けて、合意形成や社会参画を視野に入れながら、課題の解決に向けて事実を基に協働して考察したり構想したりしたことを、論拠をもって表現できるようになることを目指している。
選択履修科目「政治・経済」においては金融教育の基盤となる経済について概念や理論の学習が行われている。そこでは「個人や社会を問わず最適な経済活動を行うためには希少な資源をいかに配分するかという選択の問題が基本的な問題として存在している」という理解、また「経済的な選択や意思決定においては(中略)効率と公正とを調整し、両者が共に成り立つことが要請されている」ことの理解を踏まえ、経済に関わる様々な問題を考察することになっている。その中で経済活動を行うための資金に対する需要と供給が金融市場の金利を変動させたり株式市場の動向などによって調整されたりすることを学習するのである。
また、家庭科では、家計管理の理解、生涯の生活設計、生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性、消費者の権利と責任、消費生活の現状や課題、消費行動における意思決定や責任ある消費の重要性といったテーマに沿って、生活の営みにおける金融・経済に関わる諸問題についての学習が行われている。例えば、生涯を見通した経済計画を立てるために必要な要素として、ライフステージごとにかかる費用やリスクへの備え、社会保障制度の理解などと合わせ、基本的な金融商品の特徴や資産形成の視点が扱われることになっている。また、悪質商法、多重債務、電子商取引の進展に伴って生じている問題といった金融に関わる消費者問題や、消費生活における契約の基礎、消費者被害の防止・救済などが扱われている。専門学科では、商業科でより専門的に金融についての学習が行われているし、総合学科においても自由選択科目の中で金融に関する内容を設けた科目を学ぶ学習が行われている。
さらに、教科以外では、特別活動において学校生活の中での金銭の使用、例えば文化祭の出し物やバザーなどの収支などを通して金融教育を実践的に学んでいると捉えることができるし、キャリア教育が展開される中でも金融教育に関する学習が行われている。総合的な探究の時間においては、例えば、起業をテーマとした経済的な活動が行われるとすれば、教科で学んだことを実社会と結び付けて活用する場であると考えることができる。
その他、高等学校では学校設定科目を設けることができるので、例えば、生徒の関心の高い現代社会の課題の中で金融問題を設定して研究する科目を設けたりすることも考えられるだろう。
このような生徒の進路・適性に対応した多様な教育を展開する高等学校の特性を踏まえ、小中学校で実施されてきた金融教育の成果の上に立って、高等学校としての金融教育の目標を設定していくことが大切である。その際、本プログラムの冒頭に挙げた「2.金融教育の目標と方法」に示された具体的な目標を分析し、例えば、「経済把握」、「自立した消費者」などの知識・技能、「現代日本における政治・経済の諸課題の探究」などの思考力・判断力・表現力等、また「生きる意欲と活力」、「社会への感謝と貢献」などの学びに向かう力・人間性等をバランスよく育てていくように設定していくことが必要である。
イ.金融教育をよりよく進めるために考えておくこと
高等学校では経済について理論的にしっかり学ぶこととともに、現実的な生活上の問題を取り上げて考察したり実践的な学習が行われたりしている。もちろん小中学校でもこのように理論的な学習と実践的な学習は行われているが、高等学校ではより専門的な学習になってくるため、現実との繋がりや他教科との関連が見えにくくなることが、学習上の大きな課題と考えられる。その意味では、「公共」及び「公共」での学習を基盤とした「政治・経済」における経済の理論的な学習と、家庭科をはじめ特別活動及び総合的な探究の時間などで展開される具体的な生活上の問題や実践上の問題を考える学習をいかに関連させていくか、金融教育を進める上で留意が必要である。
そのため、教育課程全体を見通す金融教育の進め方を検討しなければならない。しかし、「公共」、「政治・経済」や「家庭科」の授業の実施時期はどの学校も同じだとは限らない。また、実践的な金融教育を展開しやすい行事的な活動を行う時期や、総合的な探究の時間で行われる活動内容も同じだとは限らない。ここにカリキュラム・マネジメントの必要が生まれてくる。金融教育を充実させるために各学校で教科、総合的な探究の時間、特別活動でどのような内容がいつ、どの時期に展開されるのか、ということを把握するとともに、各教科等の担当者と連携を図りながらどのような順序で学べばより効果的な学習が展開できるかコーディネートすることが必要となる。とりわけ高等学校においては教科・科目の授業時数が配当される学年も多様であるため、こうした点に留意して金融教育を進めていくことが大切となる。