金融商品なんでも百科
(平成27・28年用)
金融商品をめぐる環境変化と適切な金融行動
金融商品の適切な利用選択するために
それでは、適切に金融商品を選択するために、どんなことが必要なのでしょうか。
1 金融商品の仕組みと特徴の着眼点を理解する
まず大切なことは、金融商品に関する知識の習得と共に、その基本的な仕組みを知ることです。目の前に無数の金融商品があっても、基本的な仕組みを理解していれば、「ああ、この金融商品の性格は、○○に似ているな」とか「この機能は、今までの○○とは違った点が特徴だな」といった見方ができます。仕組みがよく理解できない場合は、その金融商品に手を出さないことです。
また、基本的な仕組みを理解するだけでなく、その金融商品について、
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何を運用対象にしており、どんな目的にふさわしいものか
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どんなメリットとデメリットがあるか
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どんなリスクとリターンか
- 手数料などのコストはどうか
- 税金がどうかかるか
といった特徴をおさえながら、金融商品を見分ける経験を積むことも大切です。
2 リスクに対する対処方法を使い分ける
各種のリスクに対しては、それぞれの対処方法も異なってきますが、それぞれのリスクに具体的にどう対処するかを知ることが重要です。たとえば、価格変動リスク・為替変動リスクに対しては、市場変動を常に確認しておくことが基本です。
また、信用リスクに対しては、ディスクロージャー情報の入手の仕方、その読み方に習熟しておくほか、格付情報をあわせて利用する方法もあります。
主なリスク | 対応方法の例 |
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価格変動リスク | 市場変動の把握、リスク回避手段の有無の確認 |
為替変動リスク | 市場変動の把握、為替予約などリスク回避手段の検討 |
信用リスク | ディスクロージャー誌・目論見書(もくろみしょ)の利用、決算情報の読み方への習熟 |
流動性リスク | 約款、パンフレットなどの確認 |
3 金融機関からリスクの説明を受ける
リスクのある金融商品については、金融機関から事前に、どんなリスクがあるのかを確認することが重要です。高い収益が得られるチャンスのある金融商品には、それと裏腹のリスクがあるはずですから、リスクの内容を正確に認識して購入しなければなりません。金融機関は顧客に対し販売する金融商品のリスクについて説明することを義務づけられています。きちんとしたリスクの説明ができる金融機関を選ぶことが必要です。
複雑な金融商品は、内容・仕組み・コストに要注意!
金融商品の中には、わかりにくく複雑な仕組みを持つものがあります。
外国為替証拠金取引(FX)は、少額の証拠金を差し入れて外貨に換え、証拠金額の25倍までを上限に取引ができます。少額の証拠金で取引できる反面、差し入れ証拠金の25倍もの損失を生じるおそれのあるハイリスク・ハイリターンの金融商品です。
この他にも先物取引やオプション取引といったデリバティブ(金融派生商品)と呼ばれる取引の手法を使った複雑な仕組みの金融商品が増えてきています。デリバティブは、リスクを抑え一定の収益を確保しようとしたり、大きなリスクを覚悟して高い収益性を追求しようとした取引手法です。デリバティブ型金融商品には、為替相場や株価などが予想どおり変動すると大きな収益が得られる反面、予想に反して変動すると大きな損失が発生するものもありますので、商品の内容面には十分な注意が必要です。
仕組預金や仕組債は、「預金」「債券」という名前がついていても、デリバティブの仕組みが使われており、通常の「預金」「債券」とは異なる高いリスクがあります。仕組預金や仕組債・ノックイン型投資信託など、オプションを使ったデリバティブでは、満期の時期を決める権利(オプションとは権利のこと)や円で戻ってくる権利を行使できない仕組みになっているものがあります。
また外貨建て個人年金という金融商品があります。円をドルなどの外貨に換えて外国債券を購入し、その外国債券で運用するもので、為替リスクや信用リスクがあり、中途換金する場合は、ペナルティとして「解約控除」という手数料が一定期間とられるというコストの問題もあります。
賢い金融商品選びは、あくまでリスクやコストに対する正しい理解のうえに成立つものです。仕組みの複雑なものは、それだけコストもかかります。新しい金融商品を購入するときには、取扱っている窓口などで、商品の内容・仕組み・コストについて自分が納得できるまで説明してもらいましょう。
4 過去の実績を必ず確認する
相場の動きによって価格変動する商品に資金を投資するときには、必ず過去の運用実績を確認することが重要です。相場の動きに価格が左右される金融商品は、価格が上昇することもあれば、下落することもあります。現在は過去の価格変動の流れからみて、どのような水準にあるかを把握しておくことが必要でしょう。
ここ数年間の株式相場、外国為替相場の動き
5 外部の知見とアドバイスの活用
絶えず新しい金融商品が販売され、多様化する中では、以上のような点に注意していても、金融商品に関する知識の習得や理解は、どうしても追いついて行けず、適切な判断を下せないこともしばしばあります。そうした時に大切なことは、金融商品に関する中立的で客観的な情報や知見にアクセスしたり、中立的なアドバイザーに相談することです。
中立的で客観的な情報については、金融広報中央委員会を始めとして、金融関連団体が、各種の金融商品別に、あるいは官庁が年金・税金といった項目別に情報提供しています。
金融商品を選択する時点での予防的で中立的な相談窓口や事後トラブルの際の相談窓口については、「金融なんでも情報」をご覧ください。
キャッシュカードを守る
近年、カードの磁気情報を不正に読取り使用する犯罪である「スキミング」による偽造キャッシュカードの不正使用や盗難・紛失によるトラブルが多発しています。これに対して銀行では生体認証を取入れて本人確認を厳格化するなどの対応や、ICキャッシュカード化によるなりすまし防止対策、ATМで1か月あたりの支払い限度額を設定し、ATМでの出金をロックする、などの工夫がなされています。これらをまずチェックしてください。同時に、次の点に日常的に留意してください。
- キャッシュカードの枚数を必要最小限に減らす。
- 毎日キャッシュカードがあるかどうか確認し、月1回は通帳記帳する。
- 口座番号は人に知られないようにする。
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暗証番号は生年月日など簡単に推測されるものにせず、口座ごとに異なるようにし、こまめに変更したり、ほかでは使わないなど工夫をする。
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暗証番号をカードに記入したり他人に教えたり絶対せず、番号を書いたり、番号を推測できる書類と一緒に保管しない。
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キャッシュカードの使える口座は必要最小限の預金額にして流動性を確保し、残りのお金は定期預金やその他の金融商品での運用にまわす。
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ATМの利用にあたっては、暗証番号の入力時に覗き見されない、利用明細書は安易に捨てない、などに気をつける。
なお、万が一カードの偽造や盗難にあった場合は、すぐに、取引している金融機関に届出てください。キャッシュカードが盗まれていなくても、磁気データがコピーされている可能性がある場合も金融機関に届出てください。金融機関の電話番号は、NTTの電話番号サービス(104)でも確認できます。また全国銀行協会のカード補償情報センター(03−3216−3761)に問い合わせてください。
被害については預金者保護法によって、預金者に過失がなければ金融機関が被害を全額補償し、過失がある場合もその立証責任を金融機関が負います。ただし、暗証番号を推測できる書類と一緒にカードを保管して盗難にあった場合などは預金者の過失となりますし、預金通帳やインターネットを使った不正引出しは保護されないので、やはりすでに述べたような自己管理が重要です。
預金者の過失の程度 | |||
---|---|---|---|
偽造カード | 無過失 | 重過失 | |
100%補償 | 0%補償 | ||
盗難カード | 無過失 | 軽過失 | 重過失 |
100%補償 | 75%補償 | 0%補償 |
●暗証番号をカードに書いていた場合→重過失
●暗証番号を生年月日にしていて、生年月日がわかる書類と一緒に保管していた場合→軽過失
お金を通して社会をよくする
私たちの個人や家族が行う金融行動は、私たち自身の暮らしを守りよくするものですが、同時に消費や寄附、貯蓄や投資を通して社会に密接に関わっています。たとえば、地球環境を悪化させるような消費をしていたり、環境に配慮しない製品を作る企業に投資したりすれば、消費や投資を通して環境悪化に手を貸すことになります。また被災地の人々への寄附や被災地ファンドを通した被災地の中小企業への投資は、被災地の人々と企業をはげまし、復興の経済的な支えとなります。金融商品を選ぶ場合も、こうした視点も入れて選ぶと、社会に良い影響を与えることができます。
このように個人と家計の金融すなわちパーソナルファイナンスは、自分と家族の家計を支えると同時に、社会に対してさまざまな影響を与えています。多くの人が消費者市民(コンシューマー・シチズンシップ)として、自分の家計をしっかり支えながら、社会や世界のお金の良い流れを作ろうという意識をもって家計に取組んでいくことは、とても大切です。良い意志のあるお金の使い方や貯め方、投資や寄附の仕方を考え、その観点から金融商品の選択をすることは、お金を通して世の中をよくしていくことでもあります。
企業経営では、「企業の社会的責任(CSR)」が国際的に重視されるようになっています。消費者への誠実な対応や従業員の労働条件の改善、地域社会への貢献、環境負荷の少ない製品の開発などに配慮して企業活動をすることがCSRです。CSRを自覚して活動する企業を企業市民(コーポレート・シチズンシップ)とも呼んでいます。
こうした動向に対して、個人が企業に投資するときの基準にはリターンに関する経済的指標とともに、環境配慮や企業の誠実性あるいは消費者尊重などの社会的な指標も考える「社会的責任投資(SRI)」があり、そうした企業を選んで投資する社会的責任投資ファンド(投資信託)もあります。また住民参加型市場公募地方債への投資や再生可能エネルギー事業をすすめる市民電力会社への出資なども社会をよくするお金の動きといえます。そして株式投資の場合は、株主が経営者に社会的配慮を働きかけ企業の社会的責任を果たさせるという株主行動もこの一環といえるでしょう。