はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-
はじめに
現在の私たちは、お金とかかわりをもたずに過ごすことはできません。日常生活を営むためのお金に加えて、進学、結婚、子どもの誕生などの人生の節目に際しては比較的大きなお金が必要となります。こうしたお金をどのように得、どのように使うかは、個人の生き方や生活の安定だけでなく、社会全体の動きとも深くかかわっています。
このため、子どもたちに家庭や学校で、お金にかかわる様々なことがらを分かりやすく教え、必要な知識を習得させるとともに、お金や生活に対する考え方や主体的な態度を身につけさせることが重要となります。すべての学校において、子どもたちが、「物を大切にする」、「勤労に感謝する」、「勤勉に働き人の役に立つ」ことを学ぶ中でお金に対する正しい知識や態度を身につけることはとても大切であり、こうしたことが人格の基礎を形作るといえます。また、子どもたちを消費者トラブルから守り、被害に遭わないよう未然に防止する力を身につけることも重要です。
さらに、子どもたちの将来に目を向ければ、それぞれの適性に合った進路を選び、卒業後の人生を思い描いて生活設計を立て、実り多い人生に向けて歩み出すことも大切です。
これらのことをしっかりと身につけるには、個人の生活に必要なお金の知識だけでなく、社会全体の金融や経済のしくみについても理解しておくことが重要です。これらを関連づけつつ楽しみながら学び、生涯を通じて役に立つ力を身につけていくことが、「生きる力」につながり、子どもたちの人生にとって重要な意味をもつと考えられます。
1.金融教育とは何か
金融広報中央委員会では、「お金にかかわる幅広い教育」を「金融教育」と呼び、次のように定義しています。すなわち、「金融教育は、お金や金融の様々なはたらきを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である」(『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-』平成19年2月)としています。さらに、金融教育の内容として、<1>生活設計・家計管理に関する分野、<2>経済や金融のしくみに関する分野、<3>消費生活・金融トラブル防止に関する分野、<4>キャリア教育に関する分野の4分野を、それぞれ3~4領域に分けた13領域で示しています。
(注)2016年2月に『金融教育プログラム』(2007年2月発行)を全面改訂しました。
『金融教育プログラム(全面改訂版)』1.(1)金融教育とは?
これらの内容を、「年齢を追って何を学べばよいか」との問いに答えるために体系化したものが「年齢層別の金融教育の内容」であり、そこでは学ぶべき内容を小学校低・中・高学年、中学校、高等学校ごとに体系化して示しています。
(注)『金融教育プログラム(全面改訂版)』では、「年齢層別の金融教育内容」を改訂し「学校における金融教育の年齢層別目標」として所載。
『金融教育プログラム(全面改訂版)』「学校における金融教育の年齢層別目標」
さらに、『金融教育プログラム』では、学校においてこれらの内容を取り扱う場合の方法について、専門家による丁寧な解説と学校段階ごとの優れた指導計画例を掲載しています。なお、平成20年に公示された新学習指導要領においては、法教育とともに経済に関する基礎となる内容の充実を図ることが示されており、金融教育は新学習指導要領の趣旨や内容にも即したものと考えています。
2.本書のねらいと特色
本書は、『金融教育ガイドブック-学校における実践事例集-』(平成17年3月)、『金融教育プログラム』(平成19年2月)に続き、優れた実践事例を紹介するとともに、多くの先生方に金融教育に関心をもっていただき、実践の手がかりを得ていただくための「入門ガイド」とすることを主な目的として作られています。そこで、小学校と中学校の3つの事例について、実践された先生方にインタビューを行い、着想を得てから実践し、その振り返りを行うまでのプロセスを詳しく掲載しています。さらに、これらの授業で使用されたワークシートや資料を巻末に掲載し、複写などにより授業ですぐにでも使っていただけるようにしています(なお、高校生向けには、当委員会作成副教材『これであなたもひとり立ち』があります)。本書に収録した実践事例のワークシートはすべて、広く使われているワープロソフト形式などでも掲載していますので、先生方のニーズに合わせて、自由に加工してご利用ください。
なお、本書に掲載した多くの実践事例でも使用されている金融広報中央委員会の刊行物については、本書巻末に概要と請求方法記載しているほか、当委員会ホームページにもそれらの全内容を掲載していますので併せてご活用ください。
3.金融教育に対する支援
金融広報中央委員会および都道府県金融広報委員会は、政府、日銀、民間の団体などと連携して金融教育の普及に努めています。具体的には、金融教育研究校、金銭教育研究校、金融教育研究グループを委嘱し、その教育研究ならびに実践を支援しているほか、教員対象のセミナー、中学生・高校生・教育関係者を対象とする作文・小論文コンクールを実施しています。また、都道府県金融広報委員会が学校に派遣する講師は、経済や金融に関する事項を分かりやすく子どもたちに説明するゲストティーチャーとしても貢献しています。
政府・地方公共団体、金融経済団体、NPOに加え、最近では、多くの金融機関がCSR(企業の社会的責任)活動の一環として金融教育に取り組んでいます。金融教育に関心のある先生方は、是非これら様々な主体の金融教育支援を適切に活用しつつ効果的に金融教育を導入され、児童生徒の日常と将来に役立つよう工夫をしていただきたいと思います。
なお、本書の内容も含め、金融教育に関してご相談などございましたら、遠慮なく金融広報中央委員会もしくは都道府県金融広報委員会にお問い合わせください。
4.結びにかえて
約2年間に亘る編集作業を経て、本書を完成することができましたのは、ひとえに、本書にご執筆くださった全国各地の金融・金銭教育研究校をはじめとする学校の先生方、多忙な中、度々丁寧にご指導くださった編集委員の先生方、研究校などを支援してきた各地の金融広報委員会事務局、その他すべての関係者の多大な尽力の賜物です。本書が幅広く活用され、金融教育の普及につながることを願いつつ、本書をお届けいたします。