金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
はじめに
金融教育プログラム検討委員会は、金融広報中央委員会の委嘱を受けて、学校における金融教育をより効果的に進めるためのプログラムづくりを目的に、平成18年2月に組織された。以降4回の検討会議を開催し、今般その成果を『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-』として取りまとめた。本プログラムの作成に当たっては、小学校、中学校、高等学校ごとに分科会を設置し、現場の先生方の協力を得て、各学校段階における金融教育のあり方や指導計画例の作成作業を進めていただいた。また、各方面の有識者からなるアドバイザリー会議を設置し、幅広い視点から意見を頂戴した。本プログラムはこうした各分科会およびアドバイザリー会議での成果や意見を基に作成されたものである。改めて分科会、アドバイザリー会議の委員の皆様方に厚く御礼申し上げたい。
1.本プログラムの特徴
プログラムの作成に当たって特に留意した点は、第1に、教育関係者をはじめ多くの人々に金融教育の意味や必要性を広く理解していただけるようにすること、第2に、学校現場の実情や現行の学習指導要領の趣旨を十分踏まえながら、金融教育を各教科等の学習指導にどう取り込むかの手掛かりを提供すること、第3に、実際に授業を組み立てる際の参考となるように、取り扱いの視点や指導方法等を分かりやすく示すとともに、活用可能な情報をできるだけ紹介すること、であった。以下ではこれら3点につき若干敷衍することにより本書の特徴を紹介する。
(金融教育の意味と必要性)
学校でお金のことを教えるのはタブーといった意識が現在もなお残っているといわれる。しかし、金融教育は、お金儲けを教えるものではなく、また難しい金融の知識を無理やり子どもたちに理解させようとするものでもない。むしろ、お金を通じて自分の生活のこと、社会のこと、将来のことをしっかり考える態度を養うことに主眼がある。さらに、社会の動きをみると、情報技術の普及、規制緩和等に伴う選択肢の広がり、将来に対する不確実性の高まりなど時代環境は大きく変化しており、子どもたちにはそうした社会をたくましく生き抜くことが求められている。それだけに、子どものうちから、お金との付き合い方をしっかり考え、自分の生き方や価値観を磨き、それを現実の生活に生かすことを学ぶ金融教育の必要性は従来以上に高まっている。このような金融教育の意味を多くの方に知っていただき、幅広いご理解が得られることを期待している。
(金融教育を織り込んだ授業計画の策定)
教育現場からみると、授業で金融教育を取り上げる場合、どの教科で何を教えればいいのか、という戸惑いがあろう。各教科では金融教育そのものを直接的な目標として取り上げることは難しい。ただし、現在行われている授業を振り返ったとき、どの学校でも行っている学習内容や体験学習などの中に金融教育の要素や種子がたくさん含まれていることに気づいていただくことがまずは大切である。その上で、本書では、金融教育に関して、教育課程への位置づけや各教科等とのかかわり、指導方法や題材の工夫、全体計画の作成などについての基本的な視点を提供している。そして、各教科等の学習において金融教育の視点を織り込みながら、そこで得られた金融教育の一つ一つの糸が撚り合わされ、トータルな成果に結実していくことを大きな枠組みとして提案している。
(実践に役立つ情報の提供)
本書では、上述した金融教育を組み立てる上での基本的な視点に加え、現場の先生方の協力により、小学校、中学校、高等学校のそれぞれの学校段階に応じた指導計画例を数多く呈示し、その中で、単元の設定や評価の視点、題材の採り上げ方、ワークシート、発問事例、参考文献など、授業に活用可能な具体的な情報を紹介している(注)。
- (注)
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本書の指導計画例のほか、『金融教育ガイドブック─学校における実践事例集─』、『はじめての金融教育』に収録した実践事例、さらに関係機関等が作成した金融教育に関する学習指導例をまとめて検索できるデータベース「金融教育の実践事例を探す」を、2023年6月に本ホームページで公開した。
2.プロジェクト型教育への試み
「しっかりした学力を身につけ、社会に出て立派な仕事ができる人間になって欲しい」、「たくさんの友だちや幅広い人々とのつながりを通して、相手の気持ちが分かる人間に育って欲しい」、「自分の夢を持ち、何事にも前向きに取り組める人になって欲しい」、「よいことと悪いことをしっかり判断し、健全な社会人として自立できる人間になって欲しい」。子どもを学校に送り出す保護者は子どもの将来に対し、それぞれのいろいろな願いを抱いている。学校はそうした様々な願いを受け止めて、全体としての教育方針を設定している。
現在の学校教育、とくに教科の学習においては、各教科の目標の実現を目指して教科固有の指導内容を学年に応じて取り扱う形で教育活動が進められている。子どもたちの人間としてのトータルな成長や社会の要請等を考えたとき、これらの各教科における学習を、生活課題や現代的な課程の視点から相互に関連させ再構成して学習することのできる条件を作り出す作業が求められていると思われる。
金融教育は教科等での学習を総合的な学習の時間と相互に関連づけることを通して、あるいは各教科の先生方が共通の目的に向かって協力することを通して、また、家庭や地域が学校の方針を理解し協力することを通して、さらに専門家の経験や知識を活用することを通して、大きなテーマ(例えば生き方を考える)に取り組む一種のプロジェクト型教育という性格をもっている。
多くの人たちが子どもたちの成長を願って等しく協力する作業を通して、子どもたちのたくましい成長を多面的にサポートする、そんな新しいかたちの教育の広がりをこのプログラムが提供できればこの上ない感慨である。多くの学校で金融教育への理解が進み、ダイナミックなかたちでそれが展開されることを心より願ってやまない。
金融教育プログラム検討委員会
平成17年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」には「金融を含む経済教育等の実践的教育・・・を推進する」ことが明記されました。このことを受けて、内閣府、金融庁、文部科学省および金融広報中央委員会は平成17年7月に「経済教育等に関する関係省庁等連絡会議」を設置し、平成17年度から18年度における各省庁等の取り組み内容についてとりまとめました。金融教育プログラムの策定作業は、この取り組みの一環として位置づけられるもので、金融広報中央委員会が金融教育プログラム検討委員会に検討を依頼したものです。
本作業をお願いした当委員会としては、金融教育プログラム検討委員会をはじめ、各分科会、アドバイザリー会議の委員の皆様方が、大変ご多用の中、本プロジェクトに並々ならぬ熱意で取り組んでくださったことに心から感謝申し上げます。本プログラムが広く学校において取り上げられることを期待するとともに、当委員会としても、関係機関等と協力しながら、学校における金融教育の普及・推進に向けて今後も最大限のサポートをしていきたいと考えています。皆様のご理解ご協力を心よりお願いする次第です。
金融広報中央委員会
平成19年2月
平成19年2月の本書刊行以来、全国の学校で本書を基本書として金融教育に取り組む動きが広がっています。この間、平成20年3月に小学校および中学校の学習指導要領が、また、平成21年3月に高等学校の学習指導要領が改訂され、その後、小学校および中学校で全面実施されたほか、高等学校でも平成25年度の入学生から年次進行により実施されています。こうした動きを受けて、今回、本書のうち学習指導要領からの引用箇所を改訂するとともに、近年における当委員会および関係機関・団体の取り組みについての記述を更新し、平成19年2月に該当部分をご執筆頂いた、大杉昭英先生、北俊夫先生、工藤文三先生にご確認頂きました。
近年、金融教育を巡る内外の動きが活性化しています。引き続き本書をご活用頂き、金融教育の研究・実践にお取り組み頂ければ幸いに存じます。
金融広報中央委員会
平成26年10月
学習指導要領改訂(平成20年3月、平成21年3月)後、小学校、中学校、高等学校のすべての学年で実施されるに至っていること、全国で優れた実践が展開されていることなどを踏まえ、金融広報中央委員会では、平成26年6月、「学校における金融教育推進のための懇談会」を設置し、平成27年3月にかけて「学校における金融教育の年齢層別目標」の改訂を行い、同年齢層別目標を掲載したパンフレットを作成して全国の教育委員会および学校にお届けしました。同懇談会では、引き続き『金融教育プログラム』の残りの部分について審議を重ね、このほど『金融教育プログラム』全面改訂版を発行しました。引き続き、金融教育の基本書として広く全国の学校の先生方にご活用頂けることを切に願いつつ、本書をお手元にお届けします。
金融広報中央委員会
平成28年2月
2016年2月の本書全面改訂の後、2017年・2018年に学習指導要領の改訂が行われ、金融教育に関わる記述が大幅に拡充されました。新たな学習指導要領は、既に小学校および中学校で全面実施され、高等学校でも2022年度から年次進行により実施されています。また、2022年4月には成年年齢が18歳に引き下げられました。こうした動きを受けて、本書のうち、学習指導要領からの引用箇所のほか、同要領に反映された近年の環境変化に相当する部分を、同要領に則して更新しました。引き続き、学校における金融教育の研究・実践に本書をご活用いただければ幸いです。
金融広報中央委員会
2023年10月
「学校における金融教育の年齢層別目標」公表に当たって
金融広報中央委員会は平成19年に発行した本書(『金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-』)の中で、金融教育を「お金や金融の様々なはたらきを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」と定義しました。
同プログラムは、上記の金融教育の定義のほか、「年齢層別の金融教育内容」、学校における金融教育の進め方、学校段階ごとの各教科等における指導計画例を掲載しており、金融教育の体系書として全国の学校でご活用頂いています。ただ、発行後7年余りが経過し、その間、学習指導要領が改訂され、小学校、中学校、高等学校で実施されるに至っていることを受け、当委員会では『金融教育プログラム』の改訂に着手することを決めました。
まず、金融広報中央委員会では、平成26年6月に「学校における金融教育推進のための懇談会」を設置し、『金融教育プログラム』の改訂をはじめとして、学校における金融教育をさらに推進するために必要な事項について専門家のご意見を伺うこととしました。
同懇談会では『金融教育プログラム』所載の「年齢層別の金融教育内容」の改訂を中心に検討を進め、この度、その結果を「学校における金融教育の年齢層別目標」(本書2.(2)図表4)として取りまとめ、パンフレットを作成して全国の学校等に配付するとともに、金融広報中央委員会ホームページにより公表しました。
この改訂版作成の過程では、学習指導要領およびその解説、ならびに全国の学校教育における金融教育への取り組み状況を踏まえるとともに、金融経済教育推進会議が作成した「金融リテラシー・マップ」の内容についても検討対象としました。
金融教育はお金や金融・経済全般に関して学び、社会の中で生きる力を身に付ける教育です。その内容は多岐に亘り、高等学校卒業までに社会の中で生きるために必要な力を身に付けることは容易ではありません。このため、『金融教育プログラム』では、金融教育の内容を「生活設計・家計管理に関する分野」、「金融や経済の仕組みに関する分野」、「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」、「キャリア教育に関する分野」の4つの分野に整理し、各分野について、合計13分野に分類した上で、13分野をさらに38に分類して分野目標を示し、それぞれについて年齢層別の発達段階に合った目標を提案しています。
各分野の目標を達成するための年齢層別の目標が提示されているため、これらをひとつずつ達成していくことによって、高等学校卒業までに社会の中で生きる力を身に付けることができます。こうした「学校における金融教育の年齢層別目標」のおおまかなイメージを示した概念図は後掲の通りです。なお、「学校における金融教育の年齢層別目標」の分野目標および年齢層別目標は、学習指導要領または同解説に示された教科等の内容を反映させていますが、学習指導要領および同解説に記述されていないものもあります。ただ、それらには、全国の学校における各教科の発展的な学習や総合的な学習の時間等において実践されてきた優れた授業内容を基にしたものが含まれること、ならびに、金融広報中央委員会としてはこの表のなるべく多くの目標が達成されるように学校教育における実践が行われることが望ましいと考えていることをご理解頂ければ幸いです。
また、「学校における金融教育の年齢層別目標」の各項目のうち末尾に教科等名が記載されたものがあります。これらは、学習指導要領またはその解説に照らして、その内容を学習する教科等を挙げていますので、学校で金融教育を実施する際にご参照頂ければ幸いです。
さらに、金融教育の内容やそれに関する様々な出来事を理解したり、考え、判断したりする際に活用することができる概念を「学校における金融教育の年齢層別目標」のパンフレットに記載しました(本書2.(1)②に再掲)。これらの概念の多くは高等学校までの金融・経済等にかかわる内容を含む教科や領域の中で扱われています。学校の先生方が子供たちの年齢層に応じた金融教育を実践される際に、こうした概念を念頭に置いてご指導頂き、高等学校卒業までの段階で、子供たちがこうした概念を体得し、活用できるようになれば、子供たちにとって、生涯学習の基礎としてこれからの社会を生き抜いていくための力を培う上で大きな効果を発揮するのではないかと期待しているところです。
社会における不確実性が拡大し、個人が適切な情報に基づき、将来を見通して的確に意思決定する力を身に付けることが求められる今、学校における金融教育が今後より一層広く行われることを切に願って、「学校における金融教育の年齢層別目標」(「年齢層別の金融教育内容」改訂版)をお届けします。
平成27年3月
金融広報中央委員会
2017年および2018年に文部科学省より告示された学習指導要領およびその解説の記載内容に照らして、「学校における金融教育の年齢層別目標」を改訂いたしました。学校で金融教育を実践する際にご活用ください。
2021年3月
金融広報中央委員会
「金融教育プログラム検討委員会」委員等名簿・「学校における金融教育推進のための懇談会」委員等名簿(PDF 604KB)
2023年10月改訂においてご意見を頂いた有識者の方々(PDF 106KB)