金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(2023年10月改訂版)
4.金融教育の指導計画の作成と実施に向けて
(5)学習評価と学習指導の改善
① 学習評価の視点と方法
学習評価については、各教科等の目標に照らしてその実現状況を3つの観点から分析的に捉える観点別評価がある。学習指導要領において各教科等の目標を「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の資質・能力で整理したことを踏まえ、学習評価の観点も、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」の3観点(特別の教科 道徳では個人内評価、特別活動及び総合的な学習(探究)の時間では学校において定める観点による評価)と整理されている。この意味で、(1)②に示したように、各教科等の目標に金融教育をいかに位置付けるかが、学習評価の上でも重要となる。対象の教科等の目標のうち、どの資質・能力にどのように関係するかをあらかじめ明らかにしておくということである。
目標に準拠した評価では学習指導によって児童生徒がどの程度(A「十分満足できる状況」、B「おおむね満足できる状況」、C「努力を要する状況」)目標を実現したかを記録する。なお、「学びに向かう力、人間性等」のうち「感性や思いやり」などは、A、B、Cで評価することがなじまないとの考えから、一人一人のよい点や可能性、進歩の状況などを積極的に評価する個人内評価を行うこととされている点には留意が必要である。
ここで、評価活動を目標に準拠した評価として実効あるものにするために次の3つの条件を提案したい。
- 学習指導のねらいが明確になっていること
- 学習指導のねらいを実現した児童生徒の状態が具体的に想定されていること
- 学習指導のねらいが実現されたかどうかを評価する方法、手段が事前に準備されていること
この中で、とりわけ条件ア.については目標に準拠した評価の基本となる。何が指導のねらいであるかが明確でなければ目標の達成状況を見取ることはできないからである。次に条件イ.については評価規準を設ける必要性を述べており、この規準をもとに目標の達成状況を判定するのである。さらに、ねらいを明確にし、評価規準を設けたとしても、実際に授業の中でどういう方法で評価を行うのか、どのような評価手段を用いるのかが検討されていなければ有効な評価データを手にすることができず評価そのものができないだろう。その意味では条件ウ.は重要である。評価の手段としては、ペーパーテストに偏ることなく、児童生徒の発言や意見交換等の観察やレポート、作品の作成など学習活動全般を通して様々な評価を行っていくことによって、目標の実現状況をバランスよく評価することができる。
各教科等で行われる金融教育についての評価について、例えば、社会科や公民科において、「起業のシミュレーション学習を通して金融の働きについて理解するとともに、企業の社会的責任(CSR)について考察させる」授業を展開する場合を想定すると、株式や金融機関の働きについての知識をどの程度習得させるのか、企業の社会的責任について何を考察し、その考察で得られたアイデアや企画内容をどのように説明できるようになることを目指すのか、といった「ねらい」(条件ア.)や「ねらいが実現した児童生徒の状態」(条件イ.)を明確にしておくことが必要となる。また、それを確認するためにワークシートに記述させるのかあるいはレポートを書かせるのかなどの「評価の手段」(条件ウ.)を決めておかなければならない。学習評価の実施に当たっては、学習指導要領総則の「学習評価の充実」に記されているように、児童生徒自身が「学習したことの意義や価値を実感できるようにすること」への配慮が求められる。そのためにも上述のような視点と方法を準備することが必要である。
なお、学習評価には分析的に評価する観点別評価と、これらを総括的に捉える「評定」があるが、ここでは、学習指導の改善に大きく関わる前者に焦点を当てて学習評価の視点と方法を述べた。
② 学習指導の改善
文部科学省が2019年3月29日付で発出した「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について」においては、学習評価について「日々の授業の中で児童生徒の学習状況を適宜把握して指導の改善に生かすことに重点を置くことが重要である」とし、「観点別学習状況の評価の記録に用いる評価については、毎回の授業ではなく原則として単元や題材など内容や時間のまとまりごとに、それぞれの実現状況を把握できる段階で行う」としている。これらの内容は、指導と評価は一体であることを踏まえて、指導の改善に生かす評価を一層重視しているものである。さらに、同通知には、評価結果を教師の授業改善につながるものとすると同時に、児童生徒の学習改善につながるものとすることも求めている。これは、これまで学期末などに成績として伝えていたことを改善し、学習の過程において評価に関する情報を一人一人の児童生徒にいかに伝達していくか、それをもとに、児童生徒が日常的に自らの学習をいかに改善していくかという課題である。
前述したように目標を明確化した指導が行われ、その実現状況が分かれば、指導の改善のポイントは自ずと明らかになってくる。例えば、次のようなプロセスで学習指導の改善を行うことが考えられる。
まず、3つの観点ごとの観点別評価(特別の教科 道徳では個人内評価、特別活動及び総合的な学習(探究)の時間では学校において定める観点による評価)の中で何がうまく実現され、何が不十分かが分析できるため、児童生徒ごとに、不十分な状況にある観点の指導について検討することになる。例えば、前述の起業シミュレーション学習で「主体的に学習に取り組む態度」の観点の状況が不十分であれば、児童生徒に示した学習の題材が児童生徒にとって当たり前すぎるものであったのか、興味が全くないものであったのか、また、発問が問題であったのか、など様々な視点から次回の指導の改善を検討する必要がある。さらに、株式についての理解が不十分であったため、その後の追究意欲が生まれなかったのであれば、株式についての基本知識を補充的に学習する機会を設け、次の単元の学習に影響が出ないようにすることが必要となろう。
また、どの観点からも達成状況が十分であれば、発展的な指導が考えられよう。先の起業シミュレーション学習であれば、クラウドファンディングのような新たなタイプの資金調達や海外からの資金調達等、様々な例を考察させることなどが考えられよう。